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大阪家庭裁判所 昭和45年(家イ)1169号 審判

申立人 金大泉(仮名)

相手方 金洋子(仮名)

主文

相手方と亡金草林とが昭和二二年一二月一三日宮城県登米郡○○町長に対する届出によつてなした婚姻を取消す。

理由

本件申立理由の要旨はつぎのとおりである。

相手方はもと宮城県登米郡○○村大字○○○字○○○○△△△番地に本籍を有していた日本人であるが、昭和二二年一二月一三日金草林(本籍申立人らと同じ、東大阪市○○○△△番地で同三九年八月六日死亡)と婚姻しその間に申立人のほか二男二女をもうけた。ところが草林は相手方との婚姻前である同一二年七月九日金判順と婚姻していた。そうすると、相手方と草林との婚姻は重婚にあたり取消さるべきものであるから、主文同旨の審判を求める。

よつて審案するに、当事者双方がいずれも肩書地に住所を有することの明らかな本件について、わが国の裁判所が裁判権を有しかつ当家庭裁判所が管轄権を有することもまた明らかである。

ところで婚姻の成立要件の準拠法については法例第一三条第一項により各当事者の本国法によるべきところ、相手方の婚姻当時の本国法たる日本国法によると、重婚は同民法第七四四条第七三二条により取消すことができるものとされ、また金草林の婚姻当時の本国法たる韓国法によると、重婚については、本件婚姻当時には明文の規定なく慣習により当然無効とされていたが、西紀一九六〇年(昭和三五年)一月一日に施行された大韓民国民法第八一六条第一号第八一〇条により婚姻の取消原因とされたので、同附則第一八条第一項により取消すことができると解するのが相当であるから、結局、本件婚姻は、当事者双方の本国法によつて、いずれも取消すことができる場合に該当する。

なお婚姻の取消は、韓国においてもわが国におけると同じように、家庭法院の丙類審判事項とされており、したがつて本件申立を受けた管轄権を有するわが家庭裁判所が、家事審判法第二三条の審判手続によつてこれを処理することができることはいうまでもない。

さて当裁判所が昭和四五年五月二五日に開いた調停委員会において当事者間に主文同旨の合意が成立し、その原因事実に争いがないし、さらに調査の結果によると、上記申立理由と同旨の実情が認められ、これによると、当事者間の上記合意の正当なこと明らかである(なお家事審判法第二三条審判の当事者適格については、これを、当該身分行為の当事者ないし身分関係の主体となる者に限る考え方と、人事訴訟法上の当事者適格を有する者と同一に解する見解とがあるが、当裁判所は、家事審判法第二三条審判の立法趣旨と同制度運用の実際にてらし、後者の見解により、本件においては、人事訴訟法第二条第二項により婚姻取消につき当事者適格を有する申立人と相手方との間で上記法条に定める合意を適法になし得ると解した)。

以上の次第で、本件申立は正当であるから当事者間に成立した合意に相当する審判をすることとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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